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大阪高等裁判所 平成12年(行コ)56号 判決 2000年12月20日

主文

一  原判決主文二項を次のとおり変更する。

二  控訴人が、被控訴人に対し、平成八年六月一〇日付けでなした空港整備事務所の折衝費の明細・領収書等(平成五年度)(折衝費に関する支出伺い、支出負担行為兼支出命令決議書)のうち、蒲生町及び日野町職員である出席者の職及び氏名並びに請求者の印影の非公開決定を取り消す。

三  被控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中、控訴人の敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一1  本件は、被控訴人が、平成六年五月一六日、滋賀県公文書の公開等に関する条例(昭和六二年滋賀県条例第三七号、以下「本件条例」という。)に基づき、公文書である「空港整備事務所の折衝費の明細・領収書等(平成五年度)」(折衝費に関する支出伺い、支出負担行為兼支出命令決議書。以下「本件公文書」という。)の公開を請求したところ、控訴人が同月三〇日付で、本件公文書は本件条例六条七号に該当するとの理由により全面非公開とする決定を行ったので、被控訴人はその取消訴訟を提起し、同決定を取り消す判決が確定した。ところが、控訴人は、平成八年六月一〇日付けで(イ)県以外の出席者の職及び氏名並びに請求者の従業員の氏名及び印影、(ロ)請求者の預金口座、(ハ)請求者の印影の各部分は本件条例六条一号ないし三号に該当するとして、これらを非公開とする新たな処分(以下「本件処分」という。)を行ったため、被控訴人が控訴人に対し、①主位的に本件処分が無効であることの確認を、②予備的に本件処分の取消を求めた事案である。

2  原判決は①主位的請求を棄却したが、②予備的請求については「(一)(ア)本件折衝は公費による県職員との懇談会であり、公的会合というべきである。したがって、これに出席したことの情報は、専ら私生活上の事実に関する情報とはいえず、また、特段の事情のない限り、性質上公開に親しまない個人情報に該当するともいえない。出席者が折衝自体を秘密にすることを条件に出席したとしても、その点は本件条例六条七号の該当性の判断に関わるもので、右特段の事情とはいえない。氏名が公開されることによって、私生活に影響を及ぼすおそれが全くないとはいえないとしても、本件公文書には会合内容の記載はなく、出席者は空港建設に賛成の者のみではなかったのであるから、右おそれは抽象的な可能性に止まるというべきであって、その程度の可能性をもって右特段の事情があるとはいえない。したがって、『私人である出席者の氏名』が本件条例六条一号に該当するとはいえない。(イ)町職員は公務として開催された会合に出席していたというべきであり、その氏名の公開により個人攻撃につながる具体的危険性を裏付ける客観的証拠も存在しない以上、会合における町職員としての立場や役割、公共の利益のために行動することを要請される公務員の性格に照らせば、『町職員である出席者の職及び氏名』が専ら私生活上の事実に関する情報とはいえず、また、性質上公開に親しまない個人情報に該当する特段の事情があるともいえない。したがって、本件条例六条一号に該当するとはいえない。(ウ)『請求者の従業員の氏名及び印影』は、請求にかかる行為について、請求者の担当者を明示するためのものであると認められるから、右行為は専ら私生活上の事実に関する情報とはいえず、また、性質上公開に親しまない個人情報に該当する特段の事情があるともいえない。したがって、本件条例六条一号に該当するとはいえない。(二)請求書は取引の相手方に交付されるものであるから、そこに記載された請求者の預金口座についての金融機関名、本支店名、口座種別及び口座番号は、請求者がこれら情報について、自ら積極的に取引の相手方以外の者に公開することはないとしても、取引先を通じて外部に公開されることについて、これらの情報が公開されない手段を講じていないことに照らすと、請求者の預金口座が本件条例六条二号に該当するとはいえない。(三)請求者の印影はこれが公開されたとしても、そのことから直ちに当該印章が偽造されて行使され、その結果、犯罪の予防に支障が生じるおそれがあると認めることはできないから、本件条例六条三号に該当するということはできない。」旨判示し、本件処分を取り消した。

3  原判決に対し、控訴人のみが控訴に及んでいるので、当審での審理の対象は右予備的請求の当否である。

二  前提となるべき事実は原判決の事実及び理由、第二、二記載のとおりであり、争点及びこれに関する当事者の主張は、原判決の事実及び理由、第三、一2及び二2記載のとおりであるからこれらを引用する。

三  控訴人の控訴理由

1  原判決が、私人である出席者の職及び氏名が本件条例六条一号の非公開事由に該当しないとする点が誤りであること

(一) 原判決は「本件条例六条一号にいう『個人に関する情報』とは、個人が識別される情報のうち、①専ら私生活上の事実に関するもので、②性質上公開に親しまない個人情報をいうのが相当である。」とする。原判決が本件条例六条一号の要件として、右①②のいずれか一方を充たせばよいという趣旨か、あるいは、双方共に充たさなければならないという趣旨か判然とはしないが、少なくとも同条同号該当の要件として右①を要求することは誤りである。

(二) なぜなら、右①を要求することは、当事者の一方において公の職務としてなされるものであっても、私人である相手方にとっては私的な出来事であるとして、非公開事由たる個人情報に該当するとした最高裁平成六年一月二七日判決に明らかに反するからである。

(三) 本件折衝が県職員らの職務として行われているとしても、私人の資格で出席した者にとっては全くの私事である。出席者らは公務あるいは当該私人が属する団体における職務、あるいはこれに準ずるものとして参加したのではなく、全くの私人として出席しているのに、原判決はこの点を看過しており相当でない。

(四)(1) また、本件折衝が県の行政事務、事業の一環として行われ、公費の支出を伴うものであって、その話し合いの相手方となることが行政事務、事業に関与したとの側面を有するとはいえても、本件折衝に出席した事実が非開示事由に属する個人情報であるか否かは本件折衝が開催されるに至った経緯、目的、態様、出席者がその事実を秘密にすることを前提に出席した会合か否か等の諸事情を勘案して判断すべきであり、原判決のように「公費を用いた会合に出席して公務に関与した以上、出席者の氏名は開示されるべきだ」とするのは余りにも単純かつ安易に過ぎる。

(2) 本件折衝は原判決が認定する経過のもとに行われた内密のものであり、参加の事実を公表しないことを条件として出席した私人にとって、その事実自体が他人に知られたくない情報であることはいうまでもない。

(3) しかも、本件のような状況において、右参加の事実は空港建設問題に関する自己の信条に関連する情報であるというべきであり、右参加の事実を端的に示す出席者の氏名は、プライバシーに関する情報、あるいは、当該個人が他人に知られたくないと望みそのことが正当な個人情報として、保護されなければならない。

(五) 以上のとおり、私人である出席者の氏名が本件条例六条一号の非公開事由に該当しないとする原判決の判断は個人の利益の保護を忘れた到底維持し得ないものである。

2  原判決が、町職員である出席者の職及び氏名が本件条例六条一号の非公開事由に該当しないとする点が誤りであること

(一) 町職員であっても個人の氏名それ自体が個人情報であり、たとえ、氏名が非公開とされても職名が明らかになれば、その時期と職名が結びつくことにより、特定の個人が容易に識別されることになるから、職名も本件条例六条一号の要件に該当する情報というべきである。

(二) 本件折衝への町職員の出席は、まさに「個人の資格で」行われたものであり、このような場合、たまたま当該出席者が町職員であったからといって、本件条例六条一号の該当性が左右されるべきではない。

(三) 本件では、空港計画の推進主体は滋賀県であり、町は本件折衝主体ではなく、私人たる出席者と同様、地元住民との個人的なつながりから、その気持ちを汲み取ることができるということで、地元住民の一人として同席してもらったに過ぎない

(四) 本件のように激しい意見対立が存する空港計画において、これを推進する立場の滋賀県が行う折衝に出席した町職員が特定されることになれば、当該職員個人への非難につながり、当該職員の私生活が脅かされかねない事態が発生する具体的な危険が存する。

(五) 以上のとおり、本件における前記事情に照らせば、本件折衝に出席した町職員の職名、氏名が本件条例六条一号所定の非公開事由に該当することが明らかであり、原判決の誤りは明らかである。

3  原判決が、請求者の従業員の氏名及び印影が本件条例六条一号の非公開事由に該当しないとする点が誤りであること

(一) 請求者の従業員の氏名及び印影は当該従業員の所属団体ないし職業を示す個人情報であり、特定の個人が識別可能なものであるから、非公開とされるべき情報である。

(二) 従業員自身は県の取引相手ではなく、右担当者の明示の必要上、やむを得ず氏名を表示しているに過ぎないから、個人情報として保護されなければならない。

(三) 原判決は、本件条例六条一号にいう「個人に関する情報」とは、専ら私生活上の事実に関するものであるとの誤った解釈から、請求者の従業員の氏名及び印影が本件条例六条一号の非公開事由に該当しないと判断しているのであって、右判断が誤りであることは既に述べたとおりである。

4  原判決が、請求者の金融機関の口座名等が本件条例六条二号の非公開事由に該当しないとする点が誤りであること

(一) 事業者が取引上利用する預金口座は、一般に内部管理情報として秘密にすることが是認され、これらの内部管理情報につき、事業者は開示の可否及びその範囲を自ら決定できる権利、ないしは、それを自己の意思によらないでみだりに他に公表されない利益を有しているというべきである。

(二) したがって、事業者の意思によらないで右内部管理情報が公表されることは事業者の正当な意思、期待に反することになる。

(三) 原判決は「当該預金口座名が、相手方等を通じて広く外部に公開される可能性がある。」旨判示するが、事業者は容易に他者に開示されないとの認識であるからこそ、特に秘匿を求めず預金口座を知らせるのであり、原判決の事実誤認は甚だしい。

(四) 以上のとおり、請求者の預金口座が本件条例六条二号の非公開事由に該当しない旨判示した原判決の誤りは明白である。

5  原判決が、請求者の印影が本件条例六条三号の非公開事由に該当しないとした点が誤りであること。

(一) 事業者が使用する印影は前記預金口座等と共に、これを開示するか否かについて決定できる営業上及び販売上のノウハウに関する情報に該当するというべきである。

(二) 右情報は悪用されるおそれも多分にあり、請求者の印影は本件条例六条三号に該当することが明らかであるから、これに該当しないと判断した原判決には明らかな誤りがある。

第三当裁判所の判断

一1  本件条例六条は「実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、公文書の公開をしないものとする。」旨規定している。

2  ところで、「公文書の公開等に関する条例の解釈運用の手引き」(改訂版)(乙九、以下「手引き」という。)は同条の趣旨につき「本条は、制度の基本理念である『原則公開』の例外として、公開をしない公文書の範囲(適用除外事項)を定めたものである。実施機関は、請求に係る公文書に本条各号のいずれかに該当する情報が記録されている場合には、公開しないものとする。したがって、本条各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書でない限り当該公文書の公開をするものである。本条各号のいずれかに該当するため公開をしない公文書であっても、すべてが常に非公開となるわけではなく、場合によっては、部分公開あるいは一定の時間の経過により公開できる場合もあり得ることに留意するものとする。」旨解説している。

3  また、本件条例一条は「この条例は、地方自治の本旨に則した県政を推進するために公文書の公開等が重要であることにかんがみ、公文書の公開を求める権利を明らかにするとともに公文書の公開等の総合的な推進に関し必要な事項を定め、もって県民の県政への参加を一層促進し、より身近で開かれた県政の進展に寄与することを目的とする。」旨規定している。

4  以上を総合すると、本件条例は民主的な県政を実現するため、公文書の公開を不可欠なものと位置づけ、六条各号に定めた公開除外事由に該当しない限り、公文書は公開しなければならず、仮に公開除外事由に該当する場合でも、形式的に非公開と扱うことなく、非公開とされる趣旨を損なわないよう配慮しながら、なるべく公開に努めるべきことを定めているものといえる。

二  本件条例六条一号該当性について

1  本件条例六条一号は公開除外事由として「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、病歴、家族構成、職歴、資格、学歴、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

ア 法令または条例(以下「法令等」という。)の規定により何人でも閲覧することができる情報

イ 公表することを目的として実施機関が作成し、または取得した情報

ウ 法令等の規定により行われた許可、免許、届出等に際して実施機関が作成し、または取得した情報であって、公開することが公益上必要であると認められるもの」とする旨規定する。

2  手引きでは、同号の趣旨につき「個人の尊厳、基本的人権の尊重の観点から、原則として個人に関する情報で個人が識別される情報が記録されている公文書については、公開しないものとすることを定めたものである。『特定の個人が識別され得るもの』とは、特定の個人が当該情報から識別でき、または当該情報から直接特定の個人が識別できなくても他の情報と結びつけることにより、特定の個人が識別できる情報をいう。したがって、一般的には、特定の個人を識別するための第一義的要素は氏名および住所であることから、これらが記載されていれば本号の対象となる。なお、氏名等を削除して部分公開をするとしても、それ以外の部分から特定の個人が識別できるものであれば、全体を公開しないものとする。『法令』とは、法律、政令及び省令をいい、国の通達、行政実例を含まないものとする。また『条例』には、規則を含まないものとする。『事業を営む個人の当該事業に関する情報』は、個人に関する情報であっても、事業に関するものは、次号で公開、非公開の決定をするため、本号では対象としない。ただし、事業を営む個人に関する情報であっても、当該事業と無関係の情報(健康状況等)は本号の対象とする。」旨解説されている。

3  ところで、本件条例三条一項は「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、運用するものとする。この場合において、実施機関は、通常他人に知られたくない個人に関する情報をみだりに公開することのないように最大限の配慮をしなければならない。」旨規定し、その趣旨につき、手引きでは「前段は、実施機関が保有する公文書について、公開することを原則とし、公開しない公文書を定める適用除外事項の解釈、運用が恣意的にならないように定めたものであり、『権利が十分に尊重される』ためには、公開、非公開の決定を適正に行うことはもとより、供覧等の手続も迅速に行うよう運用するものとする。後段は、『公開することを原則』とする公文書公開制度にあっても、個人のプライバシー保護の観点から、通常他人に知られたくない個人の情報を正当な理由なく公開しないよう最大限の配慮をして、この条例を解釈し、運用しなければならない旨を定めたものである。『通常他人に知られたくない個人に関する情報』とは、いわゆる個人のプライバシーに関する情報であって、社会通念上、一般的に他人に知られたくないと考えられる生年月日、家族、親族関係、健康状態、病歴、学歴、職歴等の経歴、思想、信条、宗教、財産の状況、所得等の個人に関する情報をいう。」旨解説している。

4(一)  右1ないし3でみたところを総合すれば、本件条例六条一号は、三条一項後段の趣旨を実現するために設けられているのであり、個人識別情報を公開対象から除外することによって、プライバシーの不当な侵害を防止しようとしているものと解される。

そうすると、プライバシー保護の必要性が低い場合や、右保護の必要性を上回る公開の必要性がある場合には、プライバシーの不当侵害とはいえないから、そのような場合に形式的に本件条例六条一号に該当することを理由として個人情報の公開を拒むことは許されないものと解すべきである。

(二)  本件公文書は、びわこ空港建設推進のため、滋賀県空港整備事務所の職員が平成五年度中に周辺住民らと折衝(本判決で用いている「本件折衝」とは上記をさすものである。)した際のものであるが、滋賀県の担当者であったA及び同Bの陳述書(乙一一、一二)及び右Bの原審での証言及び弁論の全趣旨によれば、右折衝は以下の経緯で行われたものと認められる。

(1) びわこ空港の建設計画は、滋賀県蒲生郡蒲生町及び同郡日野町にまたがる丘陵地の約一八〇ヘクタールの予定地に、滋賀県が設置・管理者となる空港を整備しようとする計画であった。

(2) 滋賀県は、昭和六三年一一月の県議会で、右予定地を選定するなど、将来の航空機時代に対応する最重要プロジェクトとして、平成一七年度の開港に向けて努力していた。

(3) しかし、右空港予定地となった蒲生、日野の両町では、昭和六二年一二月に町議会が誘致の決議を行ったものの、騒音や事故等への心配から空港に反対する住民も多く、前記予定地選定の県議会の決議がなされる直前の昭和六三年八月及び九月には、日野町の四集落及び蒲生町の五集落で、空港に反対する対策協議会が結成された。

(4) 滋賀県は地元の理解を得るため、右対策協議会を地元との協議の窓口とすることに同意し、右対策協議会を通じて話し合いを進めようとしたが、右対策協議会内部で「周囲から条件闘争と思われかねないから説明についても聞くべきではない。」などの意見が出て、話し合いの場につくことすら拒否するようになった。そのため、平成三年ごろ以降、地元との話し合いを持つこと自体ができない状況になった。

(5) 滋賀県は、対策協議会との話し合い再開のため種々の努力をしていたが、その一貫として空港整備事務所を通じ、周辺住民のなかで話し合いの必要性を理解してくれる人々を選び、これらの人々から地元集落の考え方や、地元の情勢等に関する情報収集を行うとともに、話し合いの実現に向け尽力を依頼する等の折衝事務を行っていた。

(6) 本件折衝は、右折衝事務のうち平成五年度内に行われたものであり、地元各集落の大半が空港開設に反対し、話し合いの窓口とされていた対策協議会が話し合いを拒否する中で行われたものであったため、内密を条件とし、その面談場所についても地元住民の目に触れず、ゆっくりと時間がとれるなどといった理由で、八日市市や近江八幡市という通常の生活圏から離れた飲食店等が選択された。

(7) また、本件折衝の場には、蒲生、日野両町の職員が立ち会ったが、これら職員は必ずしも空港担当者に限られず、地元住民との個人的なつながりから、連絡役・調整役として同席した。

5  本件折衝に応じた住民の氏名等の個人特定情報が公開の対象から除外されるべきこと

(一) 本件折衝に要した経費は食糧費から支出されている。食糧費は行政事務、事業の執行上、直接的に費消される経費であり、地方公共団体の長その他の執行機関が外部と交際する際に支出されることを予定した交際費とはその性格を異にしている。

したがって、控訴人が援用する交際費に関する最高裁判決が妥当するとはいえない。

(二) 右にみた食糧費の性格上、食糧費が支出される本件折衝は滋賀県が行う行政事務、事業の執行ということができ、その相手方になることは右行政事務等への関与になるから、私的事柄として当然に公開から除外されるべきであるとはいえない。むしろ、公費で飲食がなされた会合に参加している以上、食糧費の支出に疑念が抱かれた場合等にはその解明に協力すべき義務があるといえるうえ、通常、公開によりさほど不利益を被るとも考えがたいから、公開を甘受すべき立場にあるともいえる。

(三) しかし、本件では、通常の場合とは異なる事情が認められる。即ち、本件折衝に参加した住民らは、空港周辺の集落の多くが空港開設に反対し、県との交渉の窓口となっていた対策協議会が話し合い自体を拒否しているさなか、本件折衝に応じて、空港開設を進める立場の滋賀県に対し集落の情勢等の情報提供を行っているのであるから、本件折衝に応じたということ自体が地域の裏切り者と捉えられる可能性があり、右住民が特定された場合、私生活上の平穏が侵害されるおそれが大きいといえる。一方、被控訴人の側では公文書は原則公開されるべきであるという点以外に特に公開の具体的必要性があるとは認めがたい。

(四) そうすると、本件条例六条一号が公文書の公開に当たり、個人識別情報を除外し、プライバシーが不当に侵害されることを防止しようとしている点に照らすと、本件折衝に参加した住民の私生活上の平穏の保護は、まさしく、本件条例六条一号、三条一項が保護しようとしているものに該当するといえる。

したがって、本件折衝に参加した私人の氏名等の個人特定情報が本件条例六条一号で定められた非公開事由に該当するものとして、これを公開しないことは許されるものというべきである。

6  本件折衝に立ち会った町職員の職及び氏名が公開対象から除外されるべきであるとはいえないこと

次に、本件折衝に立ち会った蒲生、日野両町の職員の個人識別情報の扱いが問題となる。確かに、本件折衝は滋賀県の行政事務、事業であって、両町の行政事務等ではない。しかし、これら職員は前記のとおり、空港を誘致し、開設を推進する両町の立場から、その職員として公務の一貫として本件折衝に立ち会っているものといえ、集落の情勢等の情報提供者である前記集落の住民とはその立場を異にし、地域社会においても当然この点の理解は得られるものと考えられるから、前記住民の場合に比して、私生活の平穏侵害の危険性は格段に小さいものと考えられる。本件条例が前記のとおり、公文書の公開を民主的な県政実現のため、必要不可欠なものと位置づけ、その除外事由をできるだけ限定している点から考えると、嫌がらせの電話が架かった事例があるという点を考慮しても、非公開事由である本件条例六条一号に該当するということは困難である。

7  請求者の従業員の氏名及び印影が公開除外事由に該当すること

請求書に記載された請求者の担当従業員の氏名及び印影が個人特定情報に該当することはいうまでもない。個人の職業等を示すものは、当該本人の意思に反してむやみに公開されるべきものではなく、プライバシーとして保護されるべきものであり、しかも、これを公開する必要があるとも思えないから、本件条例六条一号に該当するものとして、非公開とすることが許される。

三  本件条例六条二号該当性について

1  本件条例六条二号は公文書の非公開事由として「法人その他の団体に関する情報または事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより当該法人等または当該事業を営む個人に明らかに不利益を与えると認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

ア 法人等または個人の事業活動によって生ずる危害から個人の生命、身体または健康を保護するために公開することが必要であると認められる情報

イ 法人等または個人の違法または不当な事業活動によって生ずる著しい支障から個人の生活を保護するために公開することが必要であると認められる情報

ウ アまたはイに掲げる情報に準ずる情報であって、公開することが公益上必要であると認められるもの」を掲げる。

2  そして、手引きでは「本号は、法人等の事業活動を保護しようとするものであり、明らかに法人等に不利益を与えるものと認められる情報については非公開とすることとし、一方、法人等の事業活動の社会的影響の増嵩にかんがみ、当該事業活動によって生ずる危害から個人の生命、身体または健康を保護するために必要と認められる情報等については、公益上公開できるものとするものである。『その他の団体』とは、団体としての規約等を有し、かつ、代表者の定めのあるものをいう。『事業を営む個人』とは地方税法七二条第五項から第七項までに掲げる事業を営む個人のほか、農業、林業、林産業等を営む個人をいう。『明らかに不利益を与えると認められるもの』とは、生産技術上のノウハウに関する情報、販売上のノウハウに関する情報および信用上不利益を与える情報が該当するが、公開の請求に係る情報が当該情報にあたるかどうかは、法人等の性格、規模、事業活動における当該情報の位置付け等について留意し、判断するものとする。」旨解説されている。

3  右によれば、本件条例六条二号は、公文書公開が民主的県政の実現のために必要であるとしても、不当に法人その他の事業上の利益が侵害されてはならないから、公文書の公開により事業上の利益が不必要に公開されることがないよう、ただし書きに該当し公開の必要性が認められる場合以外には、これを公開対象から除外すべきことを定めたものと解される。

4  請求書に記載された振込先の預金口座は請求者が顧客の支払いの便宜のため記載しているに過ぎず、その意思に反して一般に公開されることを予定・許容しているとはいえず、請求者の信用に関わる事業上の情報として保護されるべきものであって、事業者の意思等を無視してまで、これを公開する必要性は特に考えられないから、本件条例六条二号の非公開事由に該当するものとして、非公開とすることが許されるべきである。

四  本件条例六条三号該当性について

1  本件条例六条三号は公文書の公開除外事由として

「公開することにより、個人の生命、身体、財産等の保護、犯罪の予防または捜査その他公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれのある情報」を掲げている。

2  そして、手引きは「本号は、公共の安全と秩序の維持を確保する観点から定めたものであり、本号に該当する情報を公開すれば、情報提供者、被疑者等の個人の生命、身体、財産等の保護または犯罪の捜査等の遂行が困難となるので、これを防止するものである。『個人の生命、身体、財産等の保護』とは、個人の生命、身体、財産等を危険から保護し、当該危険を除去することをいうものである。『その他公共の安全と秩序の維持』とは、犯罪の予防、犯罪の捜査のほかに、いわゆる公共の安全を確保するために必要な活動を行い、また社会生活に必要な法規範等が損なわれないよう保護するなど、平穏な市民生活、社会の風紀等に対する障害を除去することをいう。『支障が生ずる』とは、公共の安全と秩序を維持するための活動が阻害され、または効率的に行われなくなる場合をいう。なお、支障が生ずるおそれの有無については、客観的に判断するものとする。」旨解説している。

3  右によれば、本件条例六条三号は公開により請求書等に押捺された請求者の印影が偽造されるなどして財産被害を生じる場合等を想定した規定と解されるが、請求書等の印影が偽造されて財産等に危険が生じるとは通常考えがたい。したがって、同号に該当するとはいえない。

五  結論

1  以上のとおり、控訴人が本件折衝に立ち会った町職員の氏名及び職、請求者の印影を非公開としたことは本件条例の趣旨に反するものと解されるから、本件処分中、右部分を取り消すことが相当であると解されるが、その余の部分は本件条例の非公開事由に該当し、これらを公開しないことが許されるものと解される。

2  よって、本件控訴は一部理由があるので原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井筒宏成 裁判官 古川正孝 裁判官 和田真)

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